部屋に入ると夏恵はベットの脇のソファーで横たわっていた。

僕は横たわる夏恵を抱き起こし、ベットへ運び布団をかけて枕の上にある照明スイッチのイコライザを下げて間接照明の明度を下げた。


そしてソファーに座り煙草に火を点けた。


僕は夏恵の事を何も知らない。今更の事ながら僕はその事実の前に目を背けていた。

夏恵の名前しか知らない。

夏恵の涙はそんな僕を不安にさせ、孤独にさせた。

僕は拭い切れない不安に耐えられなくなりそうになった。

そして不意に甦った僕の体に染み付いた潮の香りがわずらわしく思えた。

僕は海水で濡れた衣服を脱ぎ捨て一人バスルームへ入った。

バスルームの照明を点けると、白いタイル貼り壁に囲まれた広い室内が眩しくて僕は少し目が眩んだ。