月明かりが夏恵を照らしていた。
まるで美しい彫像の様に夏恵は月明かりに浮き出されていた。僕はその姿に言葉を失う。
僕は黙々と沖への歩みを進める夏恵の姿に少し恐怖に似た感覚を覚えたが、それ以上に月明かりに照らされる夏恵の姿に魅了されていた。
僕が気がつくと夏恵は腰の下あたりまで、すっかりと水に浸かっていた。
そしてコチラを向いたか向かないかの微妙な角度で振り向き、軽く手を差し伸べて声に出さずに『来て』と呟いた。
本当にそう呟いたのかどうかは分からないが僕の心には、その言葉がはっきりと聞こえた。
僕は夏恵を連れ戻さなければならないといった感じの強い衝動に駆られて服を着たまま冷たい海の中に飛び込む様に駆け込んだ。
そして夏恵の右手を掴み強く引き寄せて抱きしめた。
夏恵は僅かに震えていた。