幸恵は露出の多い衣類を身に着けており、いかにも男を“誘っている”ように見える。

 まっ、こんな見え見えな誘いに乗る男なんているわけが……。


「待ちました?」

「い~え、今来たところよ」


 ……。

 いた。誘いに乗る男、普通にいた。

 しかも、なんだアレ。あの男。キッチリとスーツを着ており、いかにもお金持ちだと言わんばかりのダンディ……っぽい男。

 あのクソアマが何を考えているのかなんて興味無い。これから何をしようとしているのかなんて、さらさら興味無い。無い……が、なぜだ?

 なぜ、こんなにもイライラする?


「……っち」


 自分の意思とは関係なく、知らないうちに口から舌打ちが飛び出る始末。イライラする理由が分からないから、余計にイライラする。なんて厄介な。


「これからどこへ連れて行ってくださるのかしら?」


 前方にいる幸恵は、俺には見せたことのない笑顔で男と話している。……まァ、俺達は顔を見合わせるたびに言い合い喧嘩だからな。俺に笑顔を見せる理由がない。

 ……って、ちょっと待て。なんだよ、今の。これじゃあ、まるで……俺がアイツの笑顔を見たいみたいな言い方じゃねェかっ!

 いやいやいやっ、ねェから。さずかにそれはねェから。だいたい、なんてったって俺がアイツの笑顔を見たいと思わなくちゃいけねェんだよ?!