「……リコ」




足が止まった。

足が地面にくっついたみたいに動かない。



「…これ捨てといて」



背中の向こうから、小さく掠れた声が聞こえた。



「あ、うんっ…」



勢いで振り返って、カラになったイチゴミルクを手に持った。



早く逃げたい。

同じ空気にいるのが嫌だ。
でももっとここにいたい気もする。


ワガママで、欲張り…。



逃げるように教室を飛び出して、ピシャリと扉を閉めた。



「……っやばいよ…なに、今の…っ」



なんで名前で呼んだの。
なんであんな声で呼んだの。



扉にもたれて、心臓あたりを押さえる。



………っ、止まって…。



リコって、リコって呼ばれちゃった…!

嬉しい、嬉しい………。
ちょっとだけ、苦しいかも…。


捨てといてって言われただけなのに…。


こんなに嬉しいなんて思わなかった。