その真っ青に染まってしまったエプロンのポケットには、小さな絵筆を突っ込んでいたことを思い出したのだ。あちゃあ~、洗うの忘れてた・・・。

 がっかりしたけど、もう仕方がない。気がついてしまったからやっておこう。

 仕舞ったクリーナーを出してまたふき取り始める。筆の先は慎重に扱わなきゃならないのだ。繊細なものなのだから。

 それからあたしは鞄とエプロンと筆を持ち、部室に鍵をしめて職員室へと返しに行く。顧問は不在だったから、たまたまいた他の教師に声をかけて、職員室をあとにした。

 一人でぶらぶらと、さっきまで皆で用具を干していた校庭に向かう。

「お湯でなくて水じゃあ綺麗には取れないだろうけど・・・」

 校庭の隅にある水道で制服を腕まくりして、小さな絵筆を洗う。これは展覧会に出す絵の最後の仕上げをしたものだった。こびりついて乾いていた絵の具は綺麗な黄色。影をつけた紅葉に、光をのせたのだった。

 水が気持ちよかった。背中にあたる太陽があたたかくて、あたしはいい気分になってくる。うーん、こんな土曜もいいかも、って。

 どうせ家にいたってあたしは自分の部屋で漫画を読んでごろごろするくらいなのだ。

 妄想だったらどこでも出来るし、水も気持ちいい―――――――――――

「出来た!」
 
 綺麗になった絵筆から水をきって、あたしは満足する。よしよし、じゃあこれをブルーシートにのせて、帰ろうっと。お腹もかなり空いちゃったし・・・。

 そんなことを考えながら、小走りで体育倉庫を曲がりかけたのだ。

 その時、すぐ目の前で何かの影が動くのに気がついて―――――――――・・・


 ドン!