奏がいなくなった教室で、七瀬は結翔に問いかけた。
「島谷さん、泣くほど野上先輩といい人のこと、好きなんですね…」
「会ったのは今日だけどな。けど、アイツは一度好きになったら一途だから。それが親愛でも友愛でも、恋愛でも、な」
 そう言って笑う結翔は複雑そうな顔で奏が出ていった、教室の扉を見ていた。その瞳はどこか切なげで、七瀬は何故だか目が離せなかった。
「幼なじみ、なんですよね、島谷さんと、笹本くん。彼女のこと、よく見てるんですね」
「まぁ、な…。ただ、幼なじみってのは、一番近くて、一番遠いんだ……」
 そっと目を閉じ呟くように言葉にした結翔を、七瀬はただ見つめることしか出来なかった。
 閉じていた目を開けた結翔のその瞳には、愛しさがこもっていた。
「それでもいいかな、ってずっと思ってたんだけどな…」
 切なげに言う結翔の瞳は、どこまでも優しく愛おしそうに細められていた。
 その瞳を見つめ、七瀬は無意識に、こんなにも結翔に想われる奏を羨んだ。
 七瀬は、奏を想う結翔を見て、胸が痛んだ気がした。
 それと同時に七瀬は気づいてしまった。自分は、結翔を好きになったのだと…。


好きになった人に

彼女がいることを知ってしまった。


ずっと好きだった幼なじみは

彼女がいる先輩を好きになってしまった。


好きになった男の子には

長年想いを寄せる、女の子がいた。


それぞれが気づいてしまった片思いの恋。

叶わないと思ってしまった想い。

四人が出会い、三人が片恋に気づいたことで

四人の運命の歯車が、動き出した…。