「あ。クラス一緒だよ!ユイ!」
「あ、本当だ。おーやったな」
「なんか気のない返事ばっかなんだけど」
 と言いながら奏は笑っている。その後ろから、声がかけられた。
「ねぇ、コレ、君のかな?」
「え?」
 くるっと奏がふり返ると、そこには奏の鍵を差し出す先輩と思わしき男子生徒が立っていた。
「わわっ!ありがとうございます!」
「俺で良かったね、拾ったの」
 クスクスと笑うその男子生徒に、奏の目は釘付けだった。
「すんません、あざっす」
「いや、俺がたまたま拾っただけだから。気にしなくていいよ」
 ぼーっとしている奏の代わりに、結翔がもう一度お礼を言う。
「あっ!名前っ!名前教えてもらえませんか!今度お礼したいんで!」
 ハッと我に返った奏が名前を聞くと、ふわりと笑って言った。
「俺は野上一樹。君達は?」
「かっ奏です!島谷奏!」
「笹本結翔」
「島谷さんと笹本くんか。よろしく。待たせてる人いるから、もう行くよ。また会えるといいね」
 小走りで去っていく一樹の背中を、奏は見えなくなるまで見つめ続けた。そしてそんな奏をみつめる結翔に、奏は気付いていなかった。

 一樹が去ってからしばらくし、二人はまたクラスへ向かうべく歩き出した。
「さっきの人、野上先輩、ネクタイ赤だった。二年生だったね」
「あー。そういや、一年は緑、二年は赤、三年は青だっけ」
「うん。背高かったね」
「そうか?俺とあんま変わんなかっただろ。カナがちっさいからじゃね?お前俺より頭一個分以上ちっさいじゃん」
 ふんっと馬鹿にするように笑って言う結翔にイラッときたらしい奏は、いまだ笑っている結翔の脇に手刀を入れる。
「いてっ」
「うっさいなぁ。馬鹿にしないでよね、ユイのクセに」
「俺のクセにって何。え、酷すぎじゃね」
 少しの沈黙の後、
「「……ぷっ…ははっ!」」
 二人は揃って笑い出した。
 その後も、他愛ない話をして笑いながら歩き、いつの間にか二人は教室の前まで来ていて、また顔を見合わせて笑った。
 奏が少しドキドキしながら教室の扉を開け、二人で中に入ると、まだ人が少なかったものの、見覚えのない顔ばかりで、改めて高校生になったんだと奏は思い、少し頬が緩んだ。
「知らない人ばっかりだね、ユイ」
「おーそうだな。お、ミヤ発見」
「えっ小宮くんいたの」
「カナひでぇな」
「だって小宮くん机に突っ伏して寝てんだもん」
「まぁ、そりゃそうか」
 ぽんぽんとテンポのいい会話をしながら、二人は黒板にはってある表の通りの、自分達の席に座る。奏は「し」結翔は「さ」なので、二人は前後の席だった。
「やっぱりこの並びだよねー。小学校も中学校もそうだったよね。しかも毎年」
「これはもう腐れ縁どころか腐りきった縁だな」
「ユイもなかなかに酷いよね」
 席についても、二人は笑いながら話し続けた。