「お?優那、具合悪いのか?早退かよ」
…あれ。
ここタクシーだよね。
さっきまで受話器越しで聞いてた声が、目の前で響く。
「いや~、お客さんっ、体調注意ッスよ」
そしてまたまた、聞き慣れたチャラい声。
ボーッとした目でみると、運転席には和真さん。
助手席には、圭斗。
私は、ドライバーが和真さんだってはっきり分かりきらないまま、向かう先、自分の家の住所を教える。
「なんだあ、お前、目ぇトロトロさせて」
ニヤッと笑いながら話しかけてくるのは、圭斗。
『…』
「具合悪いのか?演技?顔真っ赤だぞ」
『…』
「おま……熱あんじゃね?それか、俺に会って嬉しくなった?ん?」
コヤツは、何を言ってんだろ…。
人が具合悪い時に…こんな冗談。
体がフラフラして、急な眩暈。
目の前にいるのは、圭斗?…細川部長?
そんなのも見当がつかないくらい、視界がぐるぐる回る。
「優那!!」
気づいた時には、視界は真っ暗に染まっていた。