そして部活の時間が終了。
ささらとの帰路。
話題は、BGMは決まったけどCDが無いだとか、自分の役は台詞が多いだとか。
正面に、影。
「縁さん」
足を止める。
「…優子さん…」
「縁。知り合い?」
「…うん」
優子さんは微笑んだ。
「縁さん。最近、うちにいらっしゃいませんね」
「ちょっと…部活が忙しくて…」
「そうですか…。では、純くんの勘違いですね」
「…何が、ですか?」
「彼は、自分が嫌な事を言ったから、縁さんがうちにいらっしゃらないと言っていました」
「天城くんが気にする事ないのに…」
「彼は、そうは思っていない様でしたよ」
…変なヤツ…。
「それから、縁さん」
「はい?」
優子さんは笑みを深くした。
「私、純くんに、自分の想いを伝えました」
『いきなり後頭部を殴られた様な』なんて表現が有るけど、まさに、それだった。
何も、言葉が出てこなかった。
「それでは、失礼します」
優子さんは去って行った。
また、雲井養護施設に行かない日が続く。
気が乗らなくて、屋上にも行ってない。
都築くんがやたら話し掛けてきた。
放送部の大会が近い。
この頃のあたしの周囲で特筆する様な事は、これぐらい。
あ。そうだ。
天城くんが、年上の女の人と付き合ってるらしい。
風の噂ね。噂。
…あたし、には、別に、関係、無い、けど、さ…。
…ああ。
《委員長》してた方が、気が楽だ。
なんでかなんて、判らないけどさ。
あ。もう一つ。
部活以外でささらを見る事が無くなった。
ある日の部活。
「ささら最近、大丈夫?」
「大丈夫って、何が?」
とぼけるな。
「ささら最近、学校に、来てないじゃん…」
「ああ。それね」
ささらは手をひらめかせた。
『それね』…?
「縁には、関係無いよ」
「関係無くない!」
室内の全員が振り向く。
「…縁。…なーにアツくなってんのぉ?」
ささらはふにゃふにゃと笑った。
「…あたしは、ささらの何なんだよ…」
放送室を飛び出した。
アテも無く走った。
疲れて、道の端にへたり込んだ。
雲が空を覆っていた。
あたしは月が出ても、動かなかった。
「ねぇ、君、いくら?」
…あ?
「君、いくら?」
…知るか、カス…。
手を引かれる。
「とりあえず、どこか、入ろうか」
抵抗する力が湧かない。
あー。手ぇ痛い。
ってか、どーでもいいや…。
「ぶぉっ…」
手が楽になる。
「アホかっ!」
抱きかかえられた。
天城くんが、そこにいた。
「こんな所で、何してる?」
天城くんは歩き出した。
…この体勢、ハズいかも。パンツ見えてないかな。
「相良さんは、無防備過ぎる」
あ、そ…。
「…いつから、あそこにいた?」
さあ…。
「…何が有った?」
何だろね…。
…今日の天城くん、よく喋るなぁ…。
「着いた」
へ…。どこに…?
そこには大きな純和風の日本家屋。
天城くんは頭でインターホンを押した。
「はい」
「純です。帰りました」
足音が近づいて来る。
門が開く。
着物を着た男性が出現。
男性を観察。
歳は五十代だろうか。
顔には皺が多く、特に、目許の笑み皺が目立つ。
背丈は中程度。
男性はあたしと天城くんを交互に見た。
「…入りなさい。話は、中で聞こう」
「…はい」
天城くんはあたしを抱きかかえたまま、門をくぐった。
居間らしい部屋で、あたしは下ろされた。
…天城くん、力持ちだな。
「純。こちらのお嬢さんは、どなたかな?」
「クラスメイトの、相良さんです」
「どういう経緯で、連れて来た?」
「援助交際と間違われて連れて行かれるところだったので」
男性は唸った。
「…承知した。相良さん」
顔を上げる。
「大したお構いも出来ませんが、ごゆるりと」
男性は微笑んだ。
男性は部屋を出た。
「相良さん」
「…なに?」
「夕飯、食べた?」
首を振る。
「そう」
天城くんは部屋を出た。
…ああ。どんな状況だ、これ?
襖が開く。
…天城くん…?
「…あや。美人さん。いらっしゃい」
会釈。
…天城くんじゃなかった。
「あ。オレ、天城竜騎。よろしく」
「はぁ…」
竜騎さんは首をかしげた。
イヤミな感じはなく、愛嬌が有る。
…ん。『天城』って言った?