伝説の最強暴走族、「月影」のトップに君臨するまで、それはそれは大層な努力が必要だった。
楽をして手に入れた名声じゃない。
「月影のトップ」というのは、私の汗と涙の称号だったんだ。
それなのに……
「伝説」を手に入れた、私への代償はあまりにも大きかった。
ある日を境にして……
私は「伝説」を捨てた……。
―『助けて……助けて、凛……っ!!』
真っ暗な空間の中で、誰かが私の名前を呼ぶ。
その声が頭に響いたとき、瞬時に耳をもぎ取りたくなるような衝動に駆られた。
―『イヤッ、イヤ!!いやああああああああああああ!!』
―ガバ!!
4月2日。
決して暑くもないのに、体から大量の汗を流しながら……ベッドの上で目を覚ました。
「はあ……はあ……」
短距離走でも走ったかのように、心臓がドクドクいってる……。
のそりと重い上半身だけを起こした私は、頭を押さえながら無意識に息を吐いた。
「また……あの夢……」
夢の中で、泣き叫んでいたあの声を……
―『助けて……助けて、凛……っ』
私は知っている……。
頭を尚も押さえながらベッドから立ち上がり、部屋に飾られていたあるモノへと手を伸ばす。
それは……真新しい制服。
今日から私は高校生だ。
花の女子高生第一日目に、あんな過去を掘り起こすような夢を見るなんて……最悪。
学校の準備をするのはまだ早いけど、二度寝は完全に無理だろうと思った私は部屋を出てキッチンへと向かった。
「あら、おはよう凛。……早くない?」
既に高校の制服へと着替えた私に、母親・香里(かおり)の驚いたような顔。
だが数秒後……それは怪訝なものへと変わった。
「あんた……なにその格好」
……無理もないけどね。