さて、そろそろ家を出る時間だ。
玄関先で待っていると、千景くんがなにか手に持ってやってきた。
「朝からご飯炊いたから弁当もついでに作ってみた」
「千景くんすごいっ!」
「ついでに愛生のも、はい」
「ええっ、ありがとう……!」
「お礼ならキスでいいよ」
「っっ!?」
両手でお弁当を受け取ると、すっと伸びてきた手が頰に添えられる。
っいま!?
待っ…!
反射的に目を瞑ったけど眉が寄っていく私。
「ぶはっ、反応かわいいー」
「へ……?」
手の感触と目の前に立つ千景くんの気配が去っていき、そっと瞼を開く。
もうすでに私に背中を向け、外へ出ようとしていた。
「もしかして眠れないぐらいに俺のキスよかった?」
意地悪な笑みひとつ残して、先に出ていく千景くん。
どこまでも余裕がある人。
悔しいぐらい崩れない。
もうっ…
そうだよ、全部千景くんのせいだよ!!