トオル君は、無言で車を走らせる。

昔、誰かが言っていたことを思い出す。

沈黙の時間のことを「天使が通る」と言うらしいってことを。

きっとトオル君と私のこの沈黙の時間にも、天使はオロオロしながら何度も私達の間を往復しているんだろうな……。

だけど、沈黙に堪え切れず、最初に口を開いたのは私の方だった。

彼の溜息の意味を幾通りもの意味で考えてしまって、だんだん不安になってくる。


「……呆れた?怒ってる?」

「違うよ。嬉しくて。で、可愛いなぁって思って。
車を運転してなきゃ、抱きしめてキスしたいとこだったのに。残念」


トオル君がはにかんだように笑う。