葉山の別荘の前でタクシーを止めると、トオル君は私にそっと手を差し出し、再び「おいで」と言った。

別荘は夏に来た時とはその華やかだった様相を異にし、私たちを密やかに迎え入れる。

あの時、花々に溢れた庭は、今では物悲しく月光に照らされ青白い光をたたえている。

海から吹き上げる風が建物の壁を弄り、ヒューヒューと音を立ててる。

家の門に辿り付き、その重々しい扉に彼が鍵を差し込むと一瞬その手を止めた。

「どうしたの?」

「え?……何でもない」

彼の言葉とは裏腹にその表情は警戒心を抱いている。