「では、今日はこれくらいにしておきましょうか。」

凛々の白熱した子どもへの
情熱から現実へ引き戻したのは
篠宮側の秘書だった。

時計の針はもう定時を
少し超えていた。

「おっと、もうこんな時間かぁ。こんなに楽しい企画会議は始めてで時間も忘れてしまったよ。」

眉を八の字に垂らして笑う
篠宮が犬みたいで凛々も
攣られて笑う。

篠宮の秘書の言葉を皮切りに
帰り支度が始まった。


「それじゃあ、失礼します。明日もよろさくお願いします。倉嶋さん、また明日も良い案を出してね。」

秘書を連れた篠宮が出て行くと
企画部長もいそいそと出て行った。


帰ったら莉央いるかな。
今日のご飯何にしよう。

楽しかった企画会議。
晴れやかな気分で会議室を
後にしようとする凛々を
足止めする物がいたのだ。

「倉嶋さん、ちょっと。」


まるで野獣のようだと思った
相手方の社長は凛々の
帰路への足を止めた。

「は、はい‥‥?」


日向は、どんどん距離を詰め
普通な日常会話をするには
近すぎるくらい接近し凛々に
言われたのは最悪なイメージを
印象つけるかのような、それ。


「倉嶋さん、これからお食事でもどうかな?」

凛々は驚かなかった
と言えば嘘になる。

でも女を入れ食いするこの
ナルシスト男にとっては
凛々を食おうとしても
不思議ではない。

「すみませんが、今夜は用事がありますので。」

半分嘘で半分本当。

断る理由の1つは今夜の
食事当番が凛々であること。

2つ目は、こんな女狂いと
ご飯に行ったらご飯だけじゃ
済まないことくらい
わかっているからだ。

「‥‥‥‥‥わかった。また誘う。」

いやいやいや私あなたと
寝る気ありませんからと
声高らかに言ってやりたい。

そうしたい。

日向の秘書は驚いた顔で
凛々を見回すと会釈をして
共に出て行った。

凛々のような庶民派が社長に
とっては珍しいのだろう。

じゃなかったら夜のお相手に
誘ったりしない。

そう、これは相手の会社の
女はほいほい着いてくるんだ
という日向の自信に繋がる
お遊びでしかないのだ。