真砂たちの里は、山の奥の奥だ。
 しかも、そうそう人も来ない、道もないようなところなのだ。
 千代を担いだまま、片手で進めるほど生易しい道のりではない。

 こくりと捨吉は頷いた。

「あ! 頭領!」

「ちっ千代姐さん!!」

 少し進んだところで、走ってきた羽月とあきに会った。
 あきは真砂の肩に、ぐったりと荷物のように力なく担がれている千代に仰天し、駆け寄ってきた。

「頭領。死んでるんですか?」

 泣きそうな顔で、真砂に問う。

「いや、大丈夫だ。斬り傷よりも、むしろ内部のほうが心配だがな」

 すでに千代は意識がないが、足はずっと震えている。
 下半身がおかしくなっているのだろう。

「お前はもう、大丈夫なのか? 走れるか?」

 真砂に問われ、あきは、少し己の下腹部に手を当てた後、頷いた。

「よし。……行くぞ」

 言うなり真砂は駆け出した。
 すぐに捨吉たちも続く。

 空が白んできている。
 夜が明ける前に、山に入ってしまいたい。

 前方に微かに見える山々を目指し、真砂は千代を落とさないよう気を付けながら、町を駆け抜けた。