「ま、真砂様……」

 声を出した瞬間、また噎せる。
 気が付いたものの、身体を動かす元気はないようで、くたりと真砂にもたれたままだ。

 真砂は左腕で千代の身体を支え、右手で彼女の帯を解いた。
 その瞬間、かちゃり、と音がし、割れた陶器が地に落ちた。

「杯?」

 落ちたものを拾って言う捨吉に、千代の身体を見ていた真砂が、口を開いた。

「致命傷にならないよう、杯を胸当て代わりにしたのか」

 喘ぐように、千代の口が動く。
 だが声は出ず、苦しそうに顔を歪めた。

 真砂は千代が着ていたずぶ濡れの単を脱がし、それを左の肩の下辺りから胸の上に走る刀傷に当てた。
 そして帯を捨吉に渡す。

「これで、傷口を縛るんだ」

「はい」

 捨吉が千代の手当てをしている間に、真砂は自分の着物を脱いだ。

「これを着せろ」

 自分は単だけになり、上衣を千代に着せるよう命じる。
 今ここで、乾いた着物を着ているのは真砂だけだ。

 捨吉はともかく、弱った上に怪我をしている千代は、濡れた着物のままでは命が危ない。
 捨吉が千代に着物を着せると、真砂は注意して、千代を担ぎ上げた。

「頭領。俺が運びましょうか」

 捨吉が気を遣うが、真砂は少し考えて首を振った。

「お前も濡れてるしな。あまり長くは、もたないだろ。でも山に入ったら頼むかもしれん」