「真砂様っ」

 ある日の夕刻。
 いつものように、真砂が食料を調達しに行こうとしていると、千代が駆けてきた。
 そのまま、脇目も振らずに、真砂に抱き付く。

「……おい」

 まだ日も暮れていない。
 しかも母屋の前だ。

 すぐ後ろには、少年少女がいるのだ。
 低く窘めるが、千代は必死で真砂に縋り付く。

「離れろよ」

 渋い顔で、千代の肩を押し返すが、千代はぶんぶんと首を振った。

「嫌です! 真砂様、千代がどれほど心配だったかおわかり? 怪我の具合だって教えてくださらないし、それどころかここに落ち着いてからは、お姿すらなかなかお見かけ出来ませんでしたもの! この千代が、そんなことに耐えられるとお思いですの?」

 傍目を全く気にせず思いのたけをぶちまける千代を、母屋の中からいくつもの視線が見つめる。
 真砂は眉間に皺を刻むと、さらに低く口を開いた。

「離せ」

 びく、と千代の身体が揺れ、それでも躊躇った後、そろそろと少しだけ、千代は身体を離した。
 一瞬にして凍り付いた空気に、母屋の皆も固まっている。

 そのまま真砂は、千代を押しのけて、森のほうへ歩いて行った。