不意に、男はあきとは反対側に顔を向けた。
 そちらに向けて、手をさらっと動かす。
 何かの合図だ。

 男はそのまま、屋敷の中へ姿を消したが、入れ替わるように道の先から、三人の男がふらりと現れた。
 どう見ても、家老の家中の者ではない。
 食い詰め浪人の風体だ。

 浪人たちは、ぶらぶらとあきの後をつけていく。

「あきを始末させる気だな」

 真砂の呟きに、捨吉が拳を握りしめた。

「バレたんでしょうか?」

「いや、バレてはいないだろう。だが千代の話じゃ、かなりな仕打ちをしてたようだ。そんな奴を、これから主家を乗っ取ろうという重臣が簡単に解き放つわけはない。どこで醜聞を広められるかわからんしな。表向き穏便に屋敷を出して、関係のないところで密かに消すつもりだろう」

「てめぇの保身のためかよ」

 捨吉が怒りのあまり、傍の枝を折りそうになる。
 慌てて羽月が、捨吉の手を押さえた。

「この分では、千代も危ないな」

 ちら、と真砂は、木の上から屋敷内を窺った。
 だが、さほど高い木でもないので、内部までは見通せない。
 真砂は再び、下に視線を落とした。