「それが、ちょっと様子がおかしくて」

 表情を曇らせる羽月を促し、真砂は建物の陰を伝って、裏に移動した。
 羽月は移動しながら、真砂に報告を続ける。

「何か、姿を見せたときもふらふらでしたし、出て来てすぐに、中から呼び止められたみたいで。すぐに中に戻ったんです」

「……逃げようとしているところを、見咎められたわけではあるまいな?」

「違うと思います。ちょっとだけ、木戸のところで話してましたから」

 妙だ、と考えていた真砂が、はっと顔を上げた。
 少し向こうに見えている屋敷の裏口が開いたのだ。

 真砂は、ざっと辺りを見ると、素早く地を蹴る。
 捨吉と羽月も、真砂の後に続いた。
 三人は、一瞬で頭上の大きな木の枝に飛び乗り、息を潜める。

 屋敷の裏から出てきたのは、あきだった。
 粗末な着物に、小さな風呂敷を抱いている。
 見送りらしき男に小さく頭を下げると、あきは通りに出てきた。

「この、まだ日も昇ってない夜中に屋敷から出すわりにゃ、ご丁寧な対応だな」

「返って怪しいですよ」

 ぼそ、と言った捨吉に頷き、真砂はあきを見送っている男を見た。