「そ、そんなことしません。それに、妹だって追い出しただけじゃないですか」

「ふふ……。やはり、旅芸人は良いのぅ。追い出されたら素直に屋敷を出る。その後人知れず消されても、誰も気にも留めぬ。旅芸人の死体など、その辺に溢れておるからの」

 千代が目を見張った。
 あきは無事逃がしたと思ったが、屋敷を出ても安心は出来なかったようだ。

---真砂様……!---

 屋敷から出たあきが、すぐに真砂らと落ち合ったら、真砂たちも危うくなるのではないか。

「そ、そんな。でもそんなこと、家臣の者がなさったら、あなた様の不名誉となりましょう」

「安心せぃ。そんな家中の者を使ったりせん。そういうのが好きな、浪人を雇うのよ。浪人は腕も立つし、金に困っておるから、金さえ払えばいくらでも引き受けてくれる」

「……何てことを!」

 千代は庭に面した障子に手をかけた。
 依然、身体は家老に向けたままだ。

 次の瞬間、家老が手にした刀を振るうのがわかった。
 咄嗟に千代は、胸を突き出した。

 千代の胸の少し上に、刀が食い込む。
 ぱっと、障子に血が飛んだ。

 千代はそのまま庭に落ち、身体を横にして倒れた。
 しばらくして、血が地面に広がっていく。

 家老は千代を見もせずに、ぱんぱん、と手を打った。

「捨てて来い」

 さっと二人ほどの家臣が現れ、千代を抱えて連れていく。
 こういったことは慣れているようで、特に驚きもなく淡々と、千代を運んだ後は乱れた庭石を整えた。