「いや、でも……」

 なおも渋る家老に、千代が掴みかかる。

「わたくしでは不満ですのっ! ほら、お前がいるからだよ! とっとと出て行きな!!」

 振り向き様、千代は枕をあきに投げつけた。
 きゃあ、とあきは悲鳴を上げ、急いで出て行く。

「お屋敷からも、出て行くんだよ!」

 あきの後ろ姿に怒鳴り、千代は密かに、ほ、と息をついた。
 これで、あきは逃がした。

「……全く、興醒めじゃな」

 家老が言い、乱れた夜具の上に、どかっと座る。
 千代はちらりと振り返った。

 これで自分にも愛想を尽かせてくれればいいのだが。
 もうちょっと取り乱したほうがいいだろうか、と考えていると、家老が千代を見た。

「女子の嫉妬は怖いのぅ」

 言いながら手を伸ばして、千代の腕を掴む。

「実の妹でなくても、一緒に育ったのじゃろう? それを、あのように追い出すとは」

 千代を引き寄せ、単の合わせから手を入れようとする家老を、やはり千代は押しのけた。

「何を拒んでおる。もうお前の望む通りになったのじゃろう? ほれ、こっちに来い」

 千代の腰を掴んでさらに引き寄せ、片手を足の間に突っ込む。
 駄目か、と千代は、小さく舌打ちした。
 こうなると、行為の中で不興を買うしかない。

 だが。
 千代は相変わらず、単の合わせを握りしめたまま。
 単を脱ぐわけにはいかないのだ。