「うん? 何じゃ」

「さっきから申し上げておりましょう。妹を、今すぐこのお屋敷から叩き出してくださいな」

 家老の下で、ひらりと千代は、へたり込んでいるあきを示した。
 少し、家老が目を見開く。

「何故じゃ? お前の妹じゃろ?」

「妹といっても、本当の妹ではありません。旅芸人ですもの、そんなことは不思議なことでもありませんでしょ。ご家老の寵を奪った女など、見たくもありませんもの。この夜更けに叩き出したほうが、ご家老にも都合がいいでしょう? あまり皆様に見られずに済みますし」

 甘えるように言う千代に、家老は頷いた。
 幸いあきには興味がなくなっていたようだ。
 が、やはり、あまり無慈悲に叩き出すのは気が咎めるのか、なおも渋る。

「じゃが、あまりに可哀想ではないか。せめてもう少し、日が昇ってからでも」

「何を仰せられます。まだあの娘に、未練がありますのっ?」

 千代が身体を起こし、家老を押しのけた。
 そして、さりげなくあきに向かって手を振る。
 行け、という合図だ。

「ご家老がその気なら、わたくし、騒ぎ立てますわよ!」

 嫉妬にかられた女子そのものになり、千代は少し暴れた。
 あきはそれに恐れをなしたように、慌ててその場に手を付いて頭を下げた。

「あ、あの。わ、わたくし、出て行きます」