そのとき、ふと飾り棚に飾ってある高価そうな杯に目が行った。

---そうだ---

 杯は少し大きめで、手の平大だ。
 千代はそれに手を伸ばしてから、塗籠の扉を引き開けた。

 細く灯りが点った室内では、乱れに乱れた夜具の上に、あきが転がっていた。
 その向こう側に、弛んだ身体を晒した家老が寝ている。

「あき、大丈夫かい」

 そろそろと近づき、千代は裸で転がっているあきの肩を揺すった。
 途端にあきは跳ね起き、だがすぐに顔をしかめて膝を折る。

「うっ……。ち、千代姐さん。密書は……」

 下腹部を押さえて言うあきの口を素早く押さえ、千代は小さく頷いた。
 あきは安心したように、息を吐く。

「動けるかい?」

 あきは顔をしかめながらも、ずりずりと千代ににじり寄った。
 その下半身から、血が流れている。

「歩けないのかい?」

「だ、大丈夫です。ちょっと、感覚が怪しいだけ……」

 そのとき、家老がもぞりと動いた。
 素早く千代は、小さく手振りで、庭の一点をあきに示した。
 あきが、驚いた顔になる。