真砂の後ろにいる捨吉と、千代は目を合わせた。
 動けない者をわざわざ担いで連れていくのも驚きだが、二人にとっては先の言葉も驚きだった。

 真砂が、『仲間』だと言った。

 里の襲撃があってからは、真砂は頭領として皆を率いているが、やはり仲間意識というものは薄いだろう。
 そもそも、そういった馴れ合いを嫌う。

 皆の上には立つが、だからといって里の者をどんなことをしてでも庇うということはない。
 どこかまだ、よそよそしい空気はあったので、真砂は皆のことを仲間だとまでは思っていないだろう。
 そう思っていた。

 千代は思わず目を瞑った。
 真砂が里の者のことを仲間だと認め、さらに動けない千代を捨てることなく連れて行ってくれる。
 嬉しい反面、真砂の足枷になっていることを悔しく思い、千代の目から涙がこぼれた。

「千代。あきは? 寝所か?」

 そんな千代の涙には気付かず、真砂は塀の近くの植え込みの中で言った。
 そろ、と千代を下ろす。
 慌てて千代は涙を拭って、建物のほうを窺った。

「はい。あそこの建物の奥に、塗籠のような部屋があります。通常の寝所はその手前ですが、激しいことをするときは、その塗籠の中で。今宵はあきに、例の家老をあそこに繋ぎ止めておくよう指示しております。その隙に、私が寝所に詰めていた者らの相手をして、書状を奪ったのです」