「……何が言いたい」

 少し険しくなった真砂の表情に、普通の者なら怯むだろう。
 だが清五郎は、特に変わらぬ口調で話し続ける。

「真砂もあの娘っ子を、他の里の娘と同じようには思ってなかっただろ? 何だかんだで、気に入ってたはずだぜ。その傷の手当てだって、お姫さんがしたんだろ。それだけ考えても、お姫さんがいたほうが、真砂だって楽じゃないか」

 その他の、身の回りの世話や食事のことは言わない。
 あまりに突っ込んでも、真砂が困るからだ。

「……そうかもしれんが。あいつが帰ると決めたんだ。傍(はた)から見ても、帰ったほうがいい状況だったろ。あのままあいつがいたら、里が危険だというのも頷ける」

「だから、例えお姫さんのせいでまた戦が起こっても、真砂が望んだことなら、皆全力で守ると言うんだ」

「俺は無用な戦は望まない。そこまであのガキが必要だとも思わん」

 きっぱりと言う。
 清五郎は視線を遠くに投げた。

 真砂は、嘘はつかない。
 この言葉も本心なのだろう。

 清五郎も真砂のことは、誰よりよく知っている。
 真砂が本気で深成を求めていたら、何も清五郎が勧めなくても、深成を帰すことはなかっただろう。
 例え深成が拒んでも、迎えに来た六郎を殺してでも留め置いたはずだ。

「まぁ、片手の生活にゃ、そのうち慣れるだろうがな」

 呟いて、清五郎は、それきり黙り込んだ。