「指令をこなしてしまえば、後のことなど、どうでもいいですよ。私がここで討たれてしまっても、真砂様に迷惑がかかるわけでもなし。私の任務は、真砂様に密書をお渡しするまで。そうでしょう?」

 己の為すべき一番のことは何か、ちゃんとわかっている。
 己の命より、指令のほうが大事なのだ。
 乱破として育った者は、そういう意識はしっかりしている。

 指令をこなした後、脱出がままならないなら、敵の手に落ちる前に、己を消す。
 身体にある忍びの印を潰し、出来れば姿そのものを消し去る。

 顔の知れているものは、命を絶つ前に顔を潰したりする。
 死体でも、他の仲間に繋がるようなものは、残すべきではないのだ。

「……今は無駄に仲間を失うわけにはいかん」

 小さく、真砂が言った。
 その言葉に、千代は目を見開いた。

 少し前の真砂であれば、躊躇いなくこのような状態の千代など打ち捨てただろう。
 己で脱出出来ない者など、不要なのだ。

 だが、真砂は千代を抱え上げた。

「ま、真砂様……」

「お前の身体の状態が、どんな風かはわからん。辛いかもしれんが、俺も片手なんでな」

 ぶっきらぼうに言うと、真砂はそのまま、静かに移動を開始する。