「的(まと)は自分が使い物にならないから、道具を使うんです。道具だけに、加減がわからないようで。あきが泣くのが、また面白いようでしたわ」

 捨吉が、唇を噛み締める。

「私は耐えられましたが、それじゃ面白くないとかでしたけど、その時点で密書の目星は付けられました。でもなかなか手に入れる機会がなく、そのうちに私は座敷牢に。厠に行くときなどに機会を窺いましたが、悪だくみをしている者たちですもの、そうそう隙はありませぬ」

「だから、最終手段を使ったのか」

「……真砂様がいらっしゃる、と、日が落ちてすぐに、羽月から聞きましたので」

 小さく、千代が言う。

「真砂様にお会いするまでに、何としても密書は手に入れなければならない。私はあきに、全く会えないわけではありませぬ。姉妹という触れ込みですし、私は妹を好きにするための人質ですけど、あまりに妹の不興を買ってもつまらないでしょう。厠の窓枠に血の染みがついたら、何としても主の気を惹きなさい、と打ち合わせておりました。私は先程牢に来た男たちが泡を吹くほど締め上げて、密書を奪いに行ったのです」

「だが、そんな状態になってしまったら、脱出がままならんだろう。後のことも、ちゃんと考えろ」

「後のことなど……」

 ふ、と自嘲気味に、千代が笑う。