「ち、千代姐さん。どうしたんです」

 捨吉が言うが、それには答えず、千代は震える手で胸元から一通の書状を取り出した。
 それを真砂に差し出す。

「……手に入れました。例の密書です」

 片膝で千代を支え、真砂は書状を広げた。

「確かに。よくやった」

 内容に目を通し、真砂は羽月に目をやった。
 すぐに羽月が立ち上がり、入ってきた築地塀向けて、小さな矢を放った。
 矢は音なく闇に消える。

 同時に、真砂から密書を受け取った羽月が、築地塀目がけて走り去った。
 羽月が築地塀を超えると、合図を受けた矢次郎が待っている。
 これで任務は完了なのだ。

「千代姐さん。大丈夫ですか?」

 真砂の腕の中で、千代は苦しそうに顔を歪めている。

「何があった。あきも、このような状態なのか?」

 真砂の問いに、千代はふるふると首を振る。

「多分、あきは大丈夫です。私を相手にするのは疲れるとかで、途中から的(まと)は、あきを。それはいいのですけど、あまりに無体なことをするもんですから、文句を言いましたら、私は座敷牢に放り込まれて。屋敷の者に、好きなだけ蹂躙されました」

「む、無体なこと?」

 思わず身を乗り出す捨吉を、真砂は押し戻した。
 ついでに声が大きくなった捨吉を睨み付ける。