「そんな奴、いてもいなくてもいいんじゃないの? 何で殺しちゃいけないんだろう」

 苛々と言う羽月に、真砂は屋敷のほうへ視線を投げた。

 矢次郎はいつも、的(まと)の近くに店を出す。
 近くなくても見える位置だ。

「屋敷の構えからして、相当な地位なんだろう。ここの殿様は若年だというし、後ろ盾も弱い。まぁ、だからこそお家騒動が持ち上がるんだが。例の重臣は敵の親玉だが、かなりの力を持っている重臣をむやみに殺せば、同調していた者らが一斉に立ち上がるかもしれん。そうなったら、抑えられんのだろう。だから、切り札の密書を奪うだけに留めて、それを以て奴らの動きを抑え込もうというんだろう」

「火種は根こそぎ成敗したほうが、後腐れはないものですがね」

 矢次郎が言うが、真砂は、ふ、と笑い飛ばした。

「まぁ密書を奪ってしまえば、後は俺たちの知ったことじゃない」

 そう言って、いくばくかの銭を置いて立ち上がる。
 真砂は特に何も口にしていないが、これは情報料である。

 捨吉と羽月も、さりげなく後に続いた。