「そうそう、千代がうずうずしてるぜ。昼間は皆働いてるから近づけないし、夕方終わったと思ったら真砂の姿はないし。帰ってきたと思ったら母屋だしな。さすがの千代も、ガキ共の集まる母屋に忍んで行くことは出来んだろ」

「そうでもせんと、引き下がりそうもなかったしな。いくら不便でも、あいつを頼る気にはならん」

「まぁ……あいつも心配なのさ。真砂を想う故だぜ。可愛いじゃないか」

 ははは、と笑い、清五郎はちらりと真砂の腰の辺りを見た。
 そこには帯に突っ込まれた、細身の懐剣がある。

「真田のお姫様は、思い切ったことをしたもんだな」

 真砂が、少し眉を動かした。

「己の宝を真砂に与えるとはね。その懐剣に、どれほどの価値があるか、わかってなかったのかな」

「わかってなかっただろうさ。てめぇの立場も、よくわかってないガキだったし」

「そうか? 自分の立場をわきまえて、真砂の元から去ったのだろ」

 淡々と言う清五郎に、真砂は口を噤んだ。
 清五郎は酒を一気にあおると、真砂に顔を向けた。

「真砂が望むなら、あの娘っ子を留め置いても良かったんだぜ?」