その日は一日、城下を歩き回った。
 屋敷に出入りしている者を見つけては後をつけ、会話の端々から情報を得る。

 夕刻になって、三人は矢次郎茶屋で一息ついた。

「とりあえず、生きてはいるようだな」

 何気ない風に呟いた真砂に、少し離れたところに座っている捨吉が、小さく頷く。

 どうやら件(くだん)の屋敷の主は、旅芸人の娘に骨抜きになっているらしい。
 公務もそっちのけで、日夜寝所に籠っているという。

「元気なこった。そんな奴なら、放っておいてもお家騒動など潰れそうだが。ひと月も働かないで、重臣が務まるのかね」

「一切働かないわけではありますまい。登城も、何度かはしておりましたよ。屋敷内で出来る仕事をしているのでしょう。お家騒動で、城の内部の空気は不穏ですし、身の危険を感じるので登城を控えたい、と言えば、一応の理由にはなります」

「へ。腰抜けめ」

 真砂の言葉に応じた矢次郎に、捨吉の横の羽月が忌々しそうに吐き捨てた。