その夜、再びあきは、納屋にいた。

「さすが千代姐さんだ。でもさ、何か、頭領もだけど、千代姐さんも変わったよね」

 あきから話を聞いた捨吉が、横で笑う。

「千代姐さんはさ、頭領の心に誰かいるのに、気付いたのかもね」

「深成ちゃん?」

「多分ね。頭領も、心のどこかに深成の存在が刺さってて、今までみたいに千代姐さんの相手を出来ないのかも」

「何だか千代姐さん、切なかったわ。あんなに頭領のこと想ってるのに。あんな状態で抱かれても、返って辛いんじゃないかしら」

 捨吉に寄り添って言うあきの肩を、捨吉は少し強く掴んだ。

「あきも、そんな弱いことじゃ駄目だ。もうちょっと、しっかりしないと。女技は心理戦でもあるんだよ。流されたら終わりだからね」

 真剣な表情で覗き込む捨吉に、あきは、我に返って頷いた。

「そ、そうね。どうもあたし、情に流されやすいっていうか。確かにもっと心を強く持たないと、的(まと)に泣き落としとかされたら自信ないわ」

「心配だなぁ。俺のことでも思ってくれよ」

「えっ」

 さらっと言った捨吉の言葉に、あきは反応してしまった。

「いや、……ほら、里の仲間のことを思えば、いくら泣き落としされても踏み止まれるんじゃないかって思って」

 慌てて捨吉が言い訳する。
 じ、とあきは、捨吉を見た。

 誰にでも優しい捨吉は、誰に対しても、同じように心配するのだろう。
 いまいち捨吉の心がわからず、あきは少し悲しくなった。