あれだけ真砂の傍にいたのに、千代に嫌われないなんて凄い、と思いつつ、でも千代は、それだけでその者自体を嫌うことはない、ということも知っている。
 だからあきは、千代のことが好きなのだ。

 嫉妬で怒っても、その時だけ。
 いつまでも根に持つということがないのだ。
 ただ深成は、その『その時だけ』が常に続いていたわけだが。

「捨吉さんも、可愛い子だったって言ってました」

 相槌を入れたあきに、千代は、おや、と片眉を上げた。

「捨吉? あんた、捨吉とそんな仲良かったかねぇ」

 何気なく言ったつもりだったが、気持ちが言葉に現れてしまったらしい。
 やはり色恋絡みでは、千代には敵わない。
 途端にあきは、真っ赤になった。

「あれあれ。何赤くなってんだい。あたしゃ仲良しかって聞いただけだよ。あんた、今は母屋だっけね。あそこの子らの面倒もあるし、そりゃ捨吉の出入りも多くなる。別に親しくなったって不思議じゃないよ?」

 にやにやと笑いながら、千代が言う。
 もうあきの気持ちは、すっかり読まれてしまっている。
 観念し、だがあえて詳しくは語らず、あきは曖昧に笑い返した。

「そうなんですよ。あたしの面倒も見てくれてるお蔭で、何かと頼りにしてます。深成ちゃん? の話も、捨吉さんに教えて貰ったんです」