少し首を傾げて、千代は当時を思い出すように空(くう)を見る。
しばしの沈黙の後、千代は、空(くう)を見つめたまま呟いた。
「考えてみれば、あいつ……深成って言ったかね。細川屋敷では、新参者の私によく懐いてたわ。初めはねぇ、あいつ、いきなり縁の下から出てきたんだよ。私はお屋敷に潜り込んですぐだったし、まずは屋敷内の構造を調べようと思って、隙あらば歩き回ってたんだよね。で、こっそり図面にしていくんだけど、図面を書いてるところなんて見つかっちゃヤバいじゃないか。そこに、ひょいっと。心の臓が止まるかと思ったよ」
「ええ? だって千代姐さんだって、そんな人が来るようなところで書かないでしょ?」
「そうさ。だからびっくりするんだよ。しかも、この私が気付かないんだよ。……今にして思えば、深成がここに来たのだって不思議じゃないかも。考えてみれば、いろいろ普通じゃなかった」
どこか遠くを見るように、千代は静かに言う。
初めは凄い勢いで深成を拒否したわりには、話していると、そう嫌ってもいないような。
「でも、お姫様だったんですよね? お姫様でも、そんな姐さんが気付かないほどの手練れだったわけですか」
「お姫様としては、ほとんど育ってないだろうさ。よく知らないけど、お姫様らしさなんか、皆無だったよ。人懐っこくてさ。犬みたいだった」
ふふ、と笑う。
やはり、芯から嫌ってはいないのだ。
しばしの沈黙の後、千代は、空(くう)を見つめたまま呟いた。
「考えてみれば、あいつ……深成って言ったかね。細川屋敷では、新参者の私によく懐いてたわ。初めはねぇ、あいつ、いきなり縁の下から出てきたんだよ。私はお屋敷に潜り込んですぐだったし、まずは屋敷内の構造を調べようと思って、隙あらば歩き回ってたんだよね。で、こっそり図面にしていくんだけど、図面を書いてるところなんて見つかっちゃヤバいじゃないか。そこに、ひょいっと。心の臓が止まるかと思ったよ」
「ええ? だって千代姐さんだって、そんな人が来るようなところで書かないでしょ?」
「そうさ。だからびっくりするんだよ。しかも、この私が気付かないんだよ。……今にして思えば、深成がここに来たのだって不思議じゃないかも。考えてみれば、いろいろ普通じゃなかった」
どこか遠くを見るように、千代は静かに言う。
初めは凄い勢いで深成を拒否したわりには、話していると、そう嫌ってもいないような。
「でも、お姫様だったんですよね? お姫様でも、そんな姐さんが気付かないほどの手練れだったわけですか」
「お姫様としては、ほとんど育ってないだろうさ。よく知らないけど、お姫様らしさなんか、皆無だったよ。人懐っこくてさ。犬みたいだった」
ふふ、と笑う。
やはり、芯から嫌ってはいないのだ。