真砂は一つ息をついた。
 そして酒の入った竹筒を掴むと、部屋を出ていく。

「お待たせ。……頭領は……外か」

 捌いた兎を乗せた葉っぱを持って部屋に入ってきた捨吉が、真砂のいた一角に目をやって言う。
 やはり真砂は、人の作ったものは食べない。

 前と変わったところといえば、食材を提供するところだろうか。
 皆が勝手に暮らしていた以前の状態とは違うのだ。

 今は皆が協力しないと、暮らしていけない。
 だからこそ、絶対人とつるまない真砂も、皆と暮らすこの状況に甘んじているのだ。

 だがだからといって、長年身に付いた習性は抜けないし、真砂自身、抜こうとも思わない。
 最低限のところしか譲歩しないのだ。

 食材は提供するが、皆とは食べない。
 同じ母屋で暮らす少年少女は、真砂がいつ眠っているかも知らないだろう。

「折角久しぶりの肉だってのに。勿体ないなぁ」

 ここに来てから、ずっとこうだ。
 今までの真砂を知っているし、片腕になったことも、党全体が肩を寄せ合って暮さねばならないこの状況も、真砂が他人を頼る理由にはならないことぐらいわかっている。
 この若干の譲歩だけでも、党の皆は嬉しく思っているのだ。

「頭領の分、取っておく?」

 鍋の中で煮える肉と野菜をかき混ぜながら、あきが言う。
 あきの親も戦で亡くなったため、ここで暮らしている。

「いや、取っておいても食べないさ。……これは俺たちで、ありがたく頂こう」

 あきは気遣わしげな視線を真砂の出て行ったほうへ向けたが、捨吉の言う通りなのだ。
 結局そのまま、兎鍋は母屋の皆の胃袋に収まった。