「お蔭で初物狩りのことは、ほとんど覚えてない。はて、誰が相手だったのかねぇ。真砂様じゃないって時点で、誰でも同じだわさ」

 ふ、と短く息をつく。
 あきはそんな千代を、真っ直ぐに見つめていた。

 これまで千代と、こんなに砕けた話をしたことはない。
 どことなく気高い感じがして、気後れするのだ。
 だが今は、そんな壁は感じない。

 そういえば、と、あきは捨吉に聞いた話を思い出した。

「そういえば千代姐さん。戦の前まで、頭領に家に小さい女の子がいたでしょう? あの子、千代姐さんとも仲良かったんですか?」

 途端に千代の目がつり上がる。
 あきは驚いて、思わず尻で後ずさった。

「何言ってんだい! あんなガキとこの私が、何で仲良くしないといけないんだ。あいつが真砂様にべったりだったお蔭で、真砂様に抱いて貰えないわ、相手にすらして貰えないわ。挙句の果てに、あいつのせいで、真砂様が片腕になったんじゃないか!」

 苛々とまくし立てる。
 でも、あきは存在しか知らなかった深成のことを、良く知っているようだ。

「そっか。千代姐さん、細川屋敷の指令時に、先にあの子に会ってるんでしたね」

「ああ……。そういえばそうだね。……そんなこと、すっかり忘れてたよ」