二日後。
 千代は真砂に手渡された書付に目を落としていた。
 
 朝に件(くだん)の屋敷を張っている矢次郎から受けた報告だ。
 屋敷の大まかな見取り図や人数などが書かれている。

「的(まと)は老人に近いような男だわね。会ってみないとわからないけど、女子に興味を示す程の体力が残ってんのかしら」

 書付から顔を上げた千代が、不満そうに言う。

「女子に興味を示して貰わないと、私たちの出番がないじゃないか」

 持っていた書付をぱし、と破る勢いで下したが、意外に丁寧に折りたたむ。
 そしてそれを、懐に入れた。

「千代姐さん。あたしにも、もう一回見せてくださいよ」

 前に座っていたあきが、少し身を乗り出して言う。
 今は指令に赴く者同士での打ち合わせの最中である。

「初めに見せて、説明もしたろうが」

「一回見ただけじゃ、覚えられません。千代姐さん、もういらないんだったら、その紙あたしにくださいよ」

 ずい、と手を出すあきに、千代は顔をしかめた。
 そして再び懐から紙を出すと、それをじっと見る。

「……まぁ……これは真砂様から渡されたとはいえ、真砂様のお手蹟(て:直筆のこと)じゃないものね」

 そう呟いて、だが若干名残惜しそうに、あきに紙を差し出す。