「そんなことがあったのね。……そっか。でもさ、さすが頭領だと思わない?」

「え?」

「だってあの頭領が、初めて気に入った女の子が、大名の姫君だったのよ! 凄いじゃない。さすが頭領、見る目があるわ」

 ぐ、と拳を握りしめ、ずい、と身を乗り出す。
 こういうところは、捨吉と似ている。

「そう……かな。そう考えればそうかもね。でも、深成がただのたおやかな姫君だったら、頭領はさっさと殺してると思うよ」

「……そういえば、初めて見たとき、あの子、頭領に食って掛かってたわ」

「あはは。そうか。うん、そういう子だから、頭領も気に入ったんだよ」

「姫君らしくもなかったわ。ただの、ちっちゃい女の子だった」

「そうだね。俺のことも、あんちゃんあんちゃんって慕ってくれた。可愛い子だったよ」

 話しているうちに、捨吉も寂しくなる。
 でも、もう深成はいないのだ。
 身分的にも、もうここに帰ってくることなどないだろう。

「ところで、あき」

 話が途切れたところで、不意に捨吉が口調を変えた。

「頭領の指令、受けられるの?」

「え? ああ、そうね。自信ないけど、頑張るわ」

 そう言った後、あきは、ちょっと意味ありげな目で捨吉を見た。