頭領である真砂に不便を強いることを、党の皆は渋ったが、真砂は自ら、片腕なので一人では返って不便だ、と言って断った。
 人の世話になどなる気はさらさらなかったが、早々に一人になると、千代がうるさく付きまといそうだったのだ。

 それに事実、いくら意地を張っても、片手では出来ないことはあるのだ。
 さらに中の長老が、頭領は中心にいるべきだと、皆を納得させた。

 今真砂のことは、主に捨吉が、さりげなく世話している。
 ずっと年少の者を指導してきただけあり、捨吉は人の世話が上手だ。

 それに、それとわからないほど自然に手を貸す。
 べったり傍に付くこともなく、だが必要なときは、すぐに現れる。
 その空気のような存在が、真砂には心地よかった。

「頭領。それ、皮剥ぎますよ」

 捨吉が真砂から兎を受け取る。
 外で荒く捌くことは出来るが、さすがに皮を剥ぐことは、片手では簡単ではない。
 そこのところもわかっており、捨吉は厨(くりや)で手早く兎の皮を剥いだ。

「そろそろ北の部分も出来ます故、ここももう少し、広くなりましょう」

 囲炉裏にかけてあった鍋に水を入れながら、長老が言う。
 真砂は部屋の隅に腰を下ろした。

 自分で決めたこととはいえ、やはり大人数と一緒の部屋で暮らすというのは慣れない。
 ただでさえ、ここにいる若者たちは、普段真砂などと、目も合わせられない者たちばかりなのだ。
 娘たちはもちろん、羽月(はづき)ら少年たちも、必要以上にぴしっと背筋を伸ばして畏まっている。