「由利 鎌之介(ゆり かまのすけ)。……お相手いたす」

 青年は呟くや、何かを放った。
 腰を落として迫る得物を見極めようとしていた真砂は、寸でのところで上体を反らせた。
 残った前髪が、僅かに切れて風に舞う。

「ほぉ。よく避けた」

 小さく言い、鎌之介は手首を捻って手元に戻したものを受け止めた。
 名前の通り、その両手に握られているのは、大きさ違いの鎖鎌である。

「ここまで入り込めたのは大したものだ。何者かは知らぬが、ただ者ではないな。だが」

 鎌之介が、じり、と足場を確かめる。
 真砂は持っていた懐剣を、腰に戻して身構えた。
 あの勢いの鎌では、弾くのは不可能だ。

「ここまでだ」

 再び鎌之介の手から鎌が飛ぶ。
 同時に背後の庭から、兵が槍を突き上げた。

 真砂は身を捻って沈めると、すぐ横に突き出された槍を掴んだ。
 そのまま思い切り引くと、庭の兵士のほうは塀に引き寄せられる。
 築地塀の上でしゃがんだ真砂の頭よりも上に突き出た穂先を、飛んできた鎌が、すぱっと切断した。

 鎌が通り過ぎた隙に、真砂は握っていた槍を、素早く投げ出すように放した。
 槍を持っていた兵は、たたらを踏みながら尻もちをついた。

 真砂はそのような兵にはやはり構わず、落ちてきた穂先を受け止めると、それを鎌之介に向かって投げつけた。
 ここまで、一瞬の出来事である。