空に丸い月が昇っている。
 明るい月明かりが煌々と照らす山の中で、真砂は木の上から屋敷を睨んでいた。

 今は、ほとんど息をしていない。
 細く微かにしているだけだ。
 今顔の前に細い紙を垂らしても、僅かも揺れないだろう。

 ここまで気配を消しても、まだ屋敷のすぐ傍ではない。
 真砂なら一瞬で入ることの出来る距離ではあるが、相手の力を考えた上での、ぎりぎり近づける距離なのである。

---確かに宴は行われたようだな。向こうの庭のほうの空気が違う---

 宴の行われたところが、深成の部屋の前とは限らない。
 だが、そう大きくない屋敷だ。

 まして深成は、病がちだという。
 そうそう離れたところまで、この夜に出向かせることはしないだろう。

---多分、あの辺だ---

 真砂は宴で少し乱れている空気の漂う一画から、少しだけ離れた屋根に目星をつけた。
 そして、軽く目を閉じると、息を整える。

 すでに宴は終わっており、屋敷は静寂に包まれている。
 だからこそ、油断出来ない。

 真砂は目を開くと同時に、木の枝を蹴った。
 空中で一回転し、地面に降りる。

 ふわり、と羽根が落ちるように、一切の物音も立てることなく、そのまま築地塀に取り付いた。
 中の気配を確かめる。