「駄目だ」

 頑として、ここは譲らない。
 捨吉はため息をついた。

「……党の状況もあるしな、俺だってむざむざ討たれる気はない。あいつを攫ったって、直後に死んだら意味ないだろ。とにかくあいつを手に入れてしまうことだ。そうすりゃ奴らは手が出せん」

「けど頭領。何も知らない深成が、頭領に気付かずに逃げるかもしれないじゃないですか。手間取ってる時間はないですよ」

「わかっている。姿を見つけりゃ、逃がすものか。気絶させてでも、必ず奪う」

 心配しているくせに、やはりこういう真砂の言葉を聞くと、捨吉は頬が緩んでしまう。

「わかりました。ではくれぐれもお気をつけて。必要になったら、いつでもその笛を吹いてください。すぐに飛んで行きますよ」

 ぺこりと捨吉が頭を下げた。

 真砂の首には、小さく細い竹の筒が下がっている。
 真砂の党の、緊急連絡用の笛だ。

 頷くと、真砂は地を蹴って、一瞬で姿を消した。