随分と走り続けて、真砂と捨吉は、昼前には、九度山を望む一つの山の中にいた。
 常人が一日がかりで進む距離も、二人にかかれば二刻(四時間)ほどで駆け抜ける。
 当然関所など、あってないようなものだ。

「ふぃ~。さすがにちょっと疲れたなぁ。予定より、随分早く着きましたね」

 川の水を飲みながら、捨吉が言う。
 忍び働きで長距離を移動することも少なくないが、今回は速さが違うのだ。
 真砂が他の忍びとは段違いに速いというのもあるが、きっとそれだけではない。

---頭領、早く深成のところに行きたいんだな。全く、ついて行くのが、やっとだよ---

 疲れたが、やはり嬉しさのほうが勝り、捨吉は俯いていることをいいことに、一人にやにやと頬を緩めた。
 真砂は竹筒を水で満たすと、それを再び腰につけた。
 じっと、遠くに見える九度山を見る。

「……真田の屋敷は、あの辺りだったな」

 真砂が、すい、と手を挙げて、九度山の一点を指す。
 捨吉は頷き、真砂の横に並んだ。

「向こうのほうに、道があります。たまに来客もあるようなので、そういった人たちは、この道を使います。故にそう警戒も厳しくないですけど、正面から乗り込むことになりますね。ただこちらは、むしろ徳川の見張りが多いです。どっちにしろ、夜に屋敷に近づくとなると、どこから行っても怪しくなりますが」