「単なる村娘じゃないだろ。大名の姫君ってだけでも難しいのに、相手は十勇士を従えた戦上手な殿様だぜ。危険でないわけないだろうが」

「そうですよ! そんな危険なことがわかりきったところに、単身乗り込もうなんて、頭領らしくもない」

 清五郎と捨吉が、必死に言い募る。
 が。

「駄目だ!」

 きっぱりと、真砂は撥ねつけた。
 そして、鋭い目で一同を見渡す。

「初めにも言ったように、これは俺個人の問題。俺一人でやり遂げなければならない仕事だ。自分の嫁を手に入れるのに、他の奴の手を借りる奴があるか?」

 皆、しんと静まって真砂を見た。
 表情は真剣だが、今までと違い、皆の口元に、僅かに笑みが浮かんでいる。

「……頭領の仰ることも、もっともですな。では……」

 ややあってから長老が、捨吉に顔を向けた。

「捨吉、心してお供せよ。道を誤るでないぞ」

「はいっ」

 途中まではついて行くということは了承済みだが、長老は意味ありげに、じっと捨吉を見た。

「行くぞ」

 真砂が立ち上がり、回廊に出る。
 皆が脇に避け、頭を下げた。

「お気をつけて」

「いってらっしゃいませ」

 女たちも、各々局から出て来て平伏する。
 それに軽く頷き、真砂は屋敷の門を出て行った。