「そんなへらへらしてると、失敗するぞ。油断するなよ。あそこはただの屋敷じゃない」

「はい」

 ようやく表情を引き締め、捨吉が背筋を伸ばす。

 真砂は月の様子を見た。
 ほぼ満月だ。

 明日が、例の観月の宴の夜。
 移動は今宵のうちにする。
 あまり近くまでは行かないが。

 真砂はそのまま、母屋に向かった。
 そこには里の者が集まっている。

 上座に真砂が座ると、すぐに清五郎が、前に紙を広げた。
 九度山辺りの見取り図だ。

「やはり夜は、警備もそれなりになるようだが、とりあえずは婚礼の宴だ。そう物々しい感じはない。他の諸大名にも、特に誘いはかけてないようだし、内々の宴だな」

「この辺りは、忍びの罠がありそうでした。入り込むなら、こっちでしょうね」

 清五郎に続いて、九度山を探っていた羽月が紙をなぞる。
 しばし図面を睨んでいた真砂は、やがて一同を見渡した。

「知っての通り、狙う相手は真田の姫君だ。しかも最も厄介な、忍びの精鋭を従えた次男の娘だ。そう簡単にはいかないだろう。だが」

 一旦言葉を切り、少し躊躇った後、真砂は言いにくそうに言葉を続けた。

「これは……俺個人の問題だ。党の皆に関わることではない。だから、俺一人で行く」

 皆が、驚いたように顔を上げた。
 すぐに全員が身を乗り出す。