それから十日余り経ったある夜。
 南端の局で、真砂は苦無袋を腰に付けた。
 そしていつも持っている懐剣を、帯に突っ込む。

「頭領。お部屋の用意は、しておかなくていいんですか?」

 回廊に控えていた捨吉が、真砂の局を覗き込みながら言う。
 予定通り南端の局に落ち着いた真砂だが、やはり誰か世話役を付けることはしていない。

 相変わらず、食事も身の回りのことも、全て一人でしている。
 故に局の中も、一人で暮らしていた頃と、何ら変わらない。

「何だよ、用意って」

「だって深成が来るんでしょう? 深成の荷物とか、入れるものとか必要なんじゃ」

 そわそわと言う捨吉に、真砂は妙な顔を向けた。

「そんな悠長に旅支度してくるわけないだろう。攫ってくるんだぞ。着の身着のままだ」

「そっか」

 じゃ、夜具だけかな~、と、意味ありげに笑う。
 刻限が近づくにつれて、捨吉の頬は緩みっぱなしだ。

「何がそんなに嬉しいんだ……」

 渋い顔で、真砂が言う。

「もちろん、深成を迎えに行くことですよ」

 へらへらと言う捨吉の額を、真砂は指で弾いた。
 いて、と少し、捨吉が仰け反る。