「確かに想定外ではありましたな。以前にも言いましたが、頭領のお傍にずっといられた、というのからして、里の者には考えられないことです。でも、悪いほうにばかりでは、ありませんでしたでしょう?」

 ふふ、と笑い、長老は庭先に目をやった。

「特別に想う者を手に入れたい、と思うことは、自然なことです。深成も、もう娘になっておりましょう。確かに嫁いでもおかしくない年頃ではありますが、武家の姫君とはいえ、元々我らと似たように育ったはず。それなりの身分ある娘のように、恋も知らぬまま親の決めた相手に嫁ぐことに、何の抵抗も感じないとも思えませぬ」

「そういや、好きでもない奴に嫁ぐなんて嫌だとか、喚いてたな」

「ほほ。そうでありましょう。お家のことや親の出世など頭にない、素直な心です。そういうことに縛られずに育った証ですな。それ故、その心を殺さねばやっていけない武家の社会では、辛いことでしょう。それを救えるのは、頭領、あなた様だけだと思いますよ」

「……あいつが俺を、想っているとは限らんだろ」

 そう言って、真砂は立ち上がった。
 回廊で一旦立ち止まり、そろ、と右手を左腕に添える。

「だが、この際そんなことはどうでもいい。この俺が、ここまでしたんだ。欲しいと思ったものは、必ず手に入れる」

 独り言のように呟き、真砂は回廊を歩いて行った。