「大丈夫です。さすがに屋敷近くまでは行きませんよ。深成の姿を確認したいけど、やっぱり成長した深成を初めに見るのは、頭領でないと」

「何言ってるんだ! とっとと行きやがれ!!」

 珍しく、真砂がちょっと慌てたように、傍にあった木の実を投げつけた。
 さすが忍びの頭領だけあり、ぱっと投げただけの木の実でも、過たず捨吉の額に命中する。

「あてっ。はいはい、では行ってきます。出来るだけ早く帰ってきますよ。長老、それまでちゃんと、頭領を見張っておいてくださいね。頭領、決行は観月の宴の夜ですからね。それまでちゃんと、大人しく待ってるんですよ」

 額を押さえつつ、捨吉はくどくどと言う。
 じろりと真砂が捨吉を睨んだ。

「ほほ。大丈夫じゃよ。頭領も、そこまで無謀なことはせん。ちゃんと情報が集まってから動きなさる。それよりも、お前も十分注意するのじゃぞ。頭領の言う通り、真田の屋敷には、優れた忍びが控えておるはずじゃ。まして深成の傍には、前に来た奴がついておるじゃろう。無茶をして捕まったりしたら、それこそ全てがふいになる。頭領のためじゃぞ、気を引き締めて行け」

「はい!」

 真剣な表情に戻り、捨吉は力強く頷くと、真砂に一礼して駆けて行った。