「ほら。前に、頭領に付きまとってる刺客がいるって言ったじゃない。前の戦に乗じて、そいつが頭領の腕を斬り落としたんじゃないの?」

 真砂が左腕を失ったことは、当然里の皆が知っているが、その経緯までは、あまり知られていない。
 真砂も言わないし、目撃者もいない。

 唯一経緯を知っている清五郎も捨吉も、真砂が言わないなら特に言うこともない。
 長老たちにだけ、清五郎が話をしただけだ。

 だからほとんどの者は、どういう経緯で真砂が片腕になったのかを知らないのだ。
 故に、結構いい加減な噂もある。

「羽月が言ってたわ。あいつがやったに決まってるって、えらい憤慨してたもの」

「ええ?」

「ああいう戦のどさくさに紛れないと、頭領に襲い掛かるなんて出来ないから、きっと頭領が戦いに忙しいときを狙って、斬りかかったんだって」

 はぁ、と若干脱力したように、あきが呟いた。
 羽月とその刺客の間に何があったのか、詳しいことは知らないが、あきも羽月がやたらとその刺客のことを敵視していることは知っている。

 が、どうも羽月の言うことは、合点がいかないことが多いのだ。
 何となく、子供の我が儘の感がある。
 あきとそう変わらぬ歳のはずなのに、羽月はどこかお子様だった。