真砂は少し驚いた。

「俺は独り者だぞ。こんな広い局(つぼね)は必要ない」

「ですから頭領。誰ぞお召しになればよろしい。何、娶れとまでは言いませぬが、世話役として、何人かお傍に侍らせればよろしかろう」

 ふ、と真砂は、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
 里の者を仲間として見るようになったとはいえ、やはり他人を頼る気はない。
 根本は、変わってないのだ。

「生憎だが、昔も今も、そんな気はない」

 冷たく言い、真砂は、つい、と手を上げた。

「南の端に、桜の大木があるだろう」

「ああ。頭領のお好きな場所ですな」

「あの前の局を、貰おうと思う」

 きょとん、と長老が、真砂を見る。
 言われた意味がわからない、というような顔だ。
 たっぷりと時間をかけた後で、ようやく長老の口が、あんぐりと開いた。

「……は? え、いや、頭領があの木を気に入っているのは、存じておりますが。あそこは屋敷内でも、かなりの離れになりますよ?」

「いいんだ。別に離れに居を構えたって、隠居するわけじゃない。ちゃんと皆の面倒は見るさ」